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闇と光のユール――tegamiya/草舟あんとす号 2019.12.12


 ユール――冬至のこと。


 陰から陽へ、闇から光へ、死から生へと再生の日。黒から白への転換を象徴するために、その日は一年で一番夜が長い。まるでこの「闇」を最後まで味わいつくしなさい、とでもいうように。

 それは嬰児みたいな太陽が女神からふたたび生まれる日。あたらしい生命はまだ弱々しく、けれどもたしかな力を孕んで復活する。それが再生の光。

 いま、小平にある草舟あんとす号さんで、「闇と光のユール」と名づけられたtegamiyaさんの個展が開催されています。わたしはこの“ユール”という言葉を題名のなかに見つけたとき、今年の夏のはじまりのことを想いだしました。

 tegamiyaさん、そして今回の舞台となっている草舟あんとす号のご店主さん、おふたりと縁の深い篠田夕加里さんがご参加され、鎌倉の葉っぱ小屋さん(葉っぱ小屋さんは展示の舞台となったかわいいお店のご店主さんで作家さんでもあります)で開催されていた「メイポールの下で」という展示が5月にあり、この“メイポール”とは夏の訪れの輝きを祝うベルテーンのお祭りに使われるリボンから名づけられたもので、そのすぐあとにやってくる夏至――ミッドサマーにおいて太陽の力が最高潮に高まり、異なる世界への扉がひらかれるまえの「火」のお祝いのためのリボンのことであり、4人の作家さんがそれぞれの“リボン”でこの季節への祝福を謳うような展示でもありました。

 このたびの“ユール”というこの題のなかに、あのベルテーンのメイポールから通じるもの、tegamiyaさんのなかで繋がる想いのごときものを、わたしは感じたのです。

 ベルテーンのあとやってきた「一年で一番昼が長い日」から、この「一年で一番夜が長い日」までのなかでtegamiyaさんがご自身のなかの“森”の奥深くにあるものを見つめ、対峙し、融合し、愛し、具現化していったさまが、このユールをとおして目に浮かぶようにも感じられました。

 光だけしか見ようとしないひとに、真の意味でひとを癒すことはできない。光と闇はほんとうはおなじものだから、闇を排斥しつづけたらそれはむしろ怖れとなって影みたいに追ってくる。闇を知り見つめ、そこに苦しみや悲しみをこえた安らぎと恩恵を知るひとこそ、真実の意味でひとの癒しとなる。そのひとが誰かを癒そうと思わなくても、そのひとのそのような姿勢、姿こそが誰かの癒しになる。――tegamiyaさんにこのようなことをおつたえしたと思うのですが、自分の口にしたことや言葉がすぐに曖昧になってしまうわたしなので、一部架空の記憶かもしれません。ただ、わたしはtegamiyaさんは真の意味でひとを癒すかたで、作品にもそのような力が宿っている。そのようなことをおつたえさせていただきました。そしてこの個展も、そのようなものです。「癒し」というのは自分の内部にあるなにかが動かされて清められたときに生じるもの。


 ひとつ、その証明みたいな話があります。

 わたしはこのユールの個展初日の7日土曜日におうかがいさせていただいたのですが、おうちに帰ってからもある作品が頭からずっと離れなかったのです。

 

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 「葡萄酒の杯」と名づけられたこの作品。添えられた言葉はtegamiyaさんのもので、“遠く道を追い求める人よ 永遠の秘密 心にまつわる謎 愛の行方 解き明かす 目覚めの味をどうぞ”と記されています。

 この葡萄のぬまたばの夜みたいな艶美さがずっと幻影みたいに瞼の裏にいる感じがして忘れがたく、いてもたってもいられずふたたび翌週の火曜日に足を運んだら、思いがけず遠方の友人とも再会したりして呼ばれていたのかもしれないなと感じました。好きとか美しいとかそういう概念をこえて、自分に必要なもので、これはわたしの“結界”のひとつとなる子なのだと感じ、きていだくことに。

 遠方の友人は赤い竜の子をお迎えしていました。たしかに彼女の“守護”としてその子しかいないとわたしも思ったし、きっと彼女を守ってくれるだろうと感じ、すべての作品がたったひとりのために、まだ見ぬ出逢うべくひとを待ってそのひとを「護る」準備をしているのだと思うと、胸がいっぱいになりました。

 tegamiyaさんのことは以前から霊性といったらわかりづらいかもしれませんが、純化されたエネルギーみたいなものが高いかたであると個人的に思っていて、このたびの展示ではとくに彼女の力、闇と光の境目の愛みたいなものが強く感じられました。

 

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 去年、おなじ場所、草舟あんとす号さんでtegamiyaさんの個展があったのですが、そのときからひきつづき今回もおみくじが。左は前回ひかせていただいた「すみれと石」で、右はこのたびのわたしに出現してくれた「闇の人」です。

 おみくじには、“闇のなか 花を手渡す人 隠された美しさの在り処を伝える人”と記されてありました。慈しみの伝言。前回のおみくじも手帖に挟んで持ち歩いていたのですが、この「闇の人」もさっそく来年の手帖に入れて一緒にいていただいてます。この2枚にはすこし呼応するものがあって、いろいろなかたに「わたしらしい」といっていただけるのも嬉しい。


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 すべてのおみくじのカードがおさめられたヤドリギの小箱。聖なる馬のチャームでユールのための神託が封じられています。このチャームはやはり“持ち主”を探すようにそれぞれ異なるものがついています。葡萄酒の杯のオーナメントやおみくじとともに、わたしだけのお守りに。


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 闇と光、陰と陽、黒と白。

 対極にあるもの。ほんとうはおなじもの。夜のなかに安らぎがあることを知るひとの季節への賛歌と敬意が空間からこぼれてくるようでした。

 展示は今月15日までです。心惹かれるかたは、足を運ばれるときっとさらに感じるものがあると思います。ぜひ、ユールの準備のためにやさしい時間を、あのあたたかな空間でお過ごしになってみてください。

 そしてかのメイポールの舞台になった葉っぱ小屋さんでも、22日までメイポールの“リボン”のおひとり、篠田夕加里さんがご参加されている展示が開催されています。わたしも足を運ばせていただく予定で、楽しみにしています。“ベルテーン”から“ユール”までの道として繋がっていると感じたので追記みたいなかたちになってしまいましたが、書き添えておきたかったので。


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 (下記は2019年12月12日に、かつて公開していたBLOGに綴ったものです。)



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